ベートーヴェンの生涯(青木やよひ)

青木やよひ
平凡新書(2009)
現代の美しい言葉で綴られた、もっとも新しいそして熱いベートーヴェン伝。緻密でいて分かり易く、当時を彷彿とさせて、所詮偽りの人生である小説なんかよりもずっと面白い、と私は思う。最後は涙が出てきた。ロマン・ロランの「ベートーヴェンの生涯」よりも10倍も感動的。「ベートーヴェン研究五十年余の全てを投入した渾身の力作」というのは誇張ではない。200年前の社会・政治・貴族や庶民の生活や都市の街並みをよくぞここまで調べ上げたものだ!今、青木やよひさんが二十歳で生きる究極の意味を啓示されたという弦楽四重奏 作品15を聴きながら本書を読めるなんて・・・本当に幸せだ。
「音楽こそ、人間をとり巻いていて、しかも人間にはとらえることのできない知識の、いっそう高い世界に達するための唯一の入り口であり、形のない入り口なのです。・・・精神が感覚を通して音楽から受けるものは、つまり具象化した精神的啓示なのです。旋律とは詩の官能生活です。一つの詩の精神的内容をわれわれの五感に沁み込ませてくれるのは、旋律ではありませんか。」
「確かに私はまだ若すぎるのですが、それでも私の申すことに間違いはないと思えますのは(おそらくいまは誰も理解せず信じないことでしょうが)、あの方[ベートーヴェン]は全人類の教養をはるかに遠く先んじているのです。私たちは彼に追いつけるでしょうか?ーーー私には疑わしく思えます。もしあの方が、その精神にある、巨大で崇高な謎が最高の完成度に達するまで生きておられさえしたら、あの方は最高の目標に到達されるでしょう。そうすれば、真の至福に私たちを一段近づける天上の認識を解く鍵を、私たちに手渡してくださるでしょう・・・・・・。」(一八一〇年七月二十八日、ゲーテ宛)アントーニア・ブレンターノ
「万物は、純粋に澄みきって神より流れ出る。たとえ度々悪への情熱に駆られて眼を曇らせようとも、私はいく重にも悔恨と浄化を重ねて、至高なる純粋な源泉、神性へとたちもどったーーーそしてーーーおんみの芸術へと。」
「無限の精神の体現者でありながら有限の存在である私たちは、苦悩と歓喜の両方を耐えるべく生まれついているのです。そして私たちにとって最善のことは、苦悩を通じて歓喜をかちうることだと申してもよいでしょう。」
「心より出ず、願わくは再び心にいたらんことを!」
「最後の四重奏曲群では、作曲家はもはや自我の主体者として語ることはない。かくれた神々の手が奏でるような高度で自在な音楽技法を駆使しながら、自らは一個の矛盾のかたまりのまま、星々の輝く天空の下で宇宙という大洋に身をゆだねて、時にはそれと戯れているかのようだ。この神秘で静謐にみたされた世界ーーかつて二十歳そこそこの私がそれに打たれたのはなぜか?人間存在の究極の意味がそこに感じられたからだ。長い人生の間には喜びも絶望もあり、そして人は誰しも過ちをおかすものだろう。しかし最後まで、人間を超えた大いなるものに対して敬虔であるように努めること、それが生きる意味だ、と。」
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