ビジョナリー・カンパニー(2) 飛躍の法則(その2)
ある第五水準の指導者はこう語っている。「いつか自宅のベランダから世界有数の偉大な企業の本社をながめて、以前はあそこで働いていたんだと言えるようになりたい」
これに対して比較対象企業の経営者は、偉大な経営者だとの世評を集めるのに熱心で、自分が引退した後に会社が成功を収められるようにはしていない場合が少なくない。自分が去った後に会社が転落していくことほど、自分の偉大さを示すものはあるだろうか。
比較対象企業の四分の三以上の経営者は、後継者が失敗する状況を作り出すか、力が弱い人物を後継者に選ぶかしており、両方に当てはまる経営者もいた。
第五水準の指導者は成功を収めた時は窓の外を見て、成功をもたらした要因を見つけ出す(具体的な人物や出来事が見つからない場合には、幸運をもちだす)。結果が悪かったときは鏡を見て、自分に責任があると考える(運が悪かったからだとは考えない)。
「会社をどこに導くべきかは分からない。しかし、適切な人材を集め、的を得た質問をして徹底的に議論していけば、偉大な企業に飛躍する道を必ず見つけ出せる」
どの企業も、成長を狙う適切な人材を集められるよりも速いペースで売上高を増やしつづけながら、偉大な企業になることはできない。売上高の伸び率がつねに適切な人材の数の伸び率より高ければ、偉大な企業を築くことはできない。
「時間を十分にかけて、はじめからAクラス上位の人を厳格に選ぼう。人選が正しければ、その人物が長くつとめてくれるように、できるかぎりのことをしよう。人選が間違っていれば、間違いを認めて、われわれは自分たちの仕事を続けられるようにし、相手も自分の人生を追及できるようにしよう」
最高の人材は最高の機会の追及にあて、最大の問題の解決にはあてない
答えではなく、質問によって指導する
ウルツェルは典型だが、飛躍を導いた指導者はみな、ソクラテスのような方法を使っている。さらに、質問するのは、ひとつの理由、たったひとつの理由からである。理解するためなのだ。相手を誘導するために質問を使うことはないし(「この点で私の意見に賛成できないのかね」とは質問しない)、誰かを非難したり黙らせたりするために質問することはない(「どうしてこれに失敗したんだ」とは聞かない)。転換期の経営陣について当時の経営幹部に質問すると、時間のかなりの部分を「理解しようと努力する」に費やしたという答えが多かった。
偉大な実績に飛躍した企業が比較対象企業より、情報の量が多かったか、質が高かったことを示す事実は見つからなかった。そういう事実は全くなかったのだ。どちらの種類の企業も、良質の情報を同じように入手できた。したがって、カギは情報の質にはない。入手した情報を無視できない情報に変えられるかどうかがカギである。
スコット・ペーパーと、キンバリー・クラークがプロクター&ギャンブルに正反対の対応を見せた事実から、われわれは決定的な点を学ぶことができた。厳しい現実に直面したとき、偉大な企業は強くなり士気が高くなっているのであって、弱くなったり士気が落ちたりはしていない。厳しい現実を真っ向から見据えて、「われわれは決して諦めない。決して降伏しない。時間がかかるとしても、必ず勝つ方法を見つけ出す」と宣言すれば、気分は高揚する。
ストックデールの逆説
どれほどの困難にぶつかっても、最後には必ず勝つという確信を失ってはならない。
そして同時に
それがどんなものであれ、自分が置かれている現実の中で最も厳しい事実を直視しなければならない。
従業員や幹部の動機付けに努力するのは、時間の無駄である。本当の問題は「どうすれば従業員の意欲を引き出せるか」ではない。適正な人たちがバスに乗っていれば、全員が意欲をもっている。問題は、人々の意欲を挫かないようにするにはどうすればいいかである。そして、厳しい現実を無視するのは、やる気を無くさせる行動の中でも特に打撃が大きい。
針鼠の概念は、最高を目指すことではないし、最高になるための戦略でもないし、最高になる意思でもないし、最高になるための計画でもない。最高になれる部分はどこかについての理解なのだ。この違いは、まさに決定的である。
「自由は全体の一部でしかなく、真実の半分でしかない。・・・だからこそわたしは、東海岸の自由の女神像に対して、西海岸に責任の女神像を建てるべきだと主張している。」(ビクトール・E・フランクル)
偉大な実績に飛躍した企業は、はっきりした制約のある一貫したシステムを構築しているが、同時に、このシステムの枠組みの中で、従業員に自由と責任を与えている。みずから規律を守るので管理の必要のない人たちを雇い、人間ではなく、システムを管理している。
「ほとんどの人は考えるくらいなら死んだ方がいいと思っている。そして、死んで行く人が多い。」(バートランド・ラッセル)
技術は適切に利用すれば業績の勢いの促進剤になるが、勢いを作りだすわけではない。偉大な業績に飛躍した企業が、先駆的な技術の利用によって転換をはじめたケースはない。理由は簡単だ。技術をうまく活用するにはまず、どの技術が自社にとって重要なのかを判断できなければならないからだ。ではどのような技術が重要なのか。針鼠の概念の三つの円が重なる部分に直接に関係する技術、重要なのはそういう技術だけである。
偉大さへの飛躍を遂げた企業はあきらかに、信じがたいほど意欲を引き出し、力を結集させ、変化を見事に管理してきた。しかし、その点を考えるのに、あまり時間を費やしていない。まったく自明の点だったのだ。条件がうまく整えば、意欲や力の結集や動機付けや改革への支持は問題ではなくなる。これらの点は自然に解決する。
この本(GTG)は『ビジョナリー・カンパニー』の続編ではなく、逆に前篇なのだと私は考えるようになっている。GTGで扱った方法を適用して、ベンチャー企業や既存企業を持続できる企業にする。つぎに『ビジョナリー・カンパニー』で紹介した方法を適用して、偉大な企業が偉大さを永続できるようにする。
永続する偉大な企業は、株主に収益を提供するだけのために事業を行っているわけではない。本当の意味で偉大な企業にとって、利益とキャッシュフローは健全な体にとっての血と水のようなものである。生きていくには必要不可欠なものだが、生きていく目的ではない。
どのような基本的価値観をもっているかではなく、基本的価値観を持っているのかどうか、基本的価値観が社内で知られているか、基本的価値観を組織に組み入れているか、長期にわたって基本的価値観を維持しているのかが問題なのだ。
『ビジョナリー・カンパニー』の4つの基本的な概念
時を告げるのではなく、時計を作る
経営者の何回もの世代交代、いくつもの製品サイクルを通じて継承し、環境の変化に適応できる組織を作り上げる。ひとりの偉大な指導者や、ひとつの偉大なアイデアを中心に企業を作るのとは正反対の考えである。
ANDの才能
いくつもの側面で両極にあるものをどちらも追及する。「AかBか」を選ぶのではなく、「AとBの両方」を実現する方法を考える。目的と利益、持続性と変化、自由と責任などである。
基本理念
基本的価値観(組織にとって不可欠で不変の主義)と基本的目的(単なる金儲けを超えた会社の根本的な存在理由)を徹底させ、長期にわたって意思決定を導く原則とし、組織全体が力を奮い立たせる原則にする。
基本理念を維持し、進歩を促す
基本理念をゆるぎない土台にするとともに、基本理念以外のすべての点では変化、改善、革新、若返りを促す。慣行や戦略は変えていくが、基本的価値観と目的は維持する。基本理念に一致するBHAGを設定し、達成する。
BHGA(社運をかけた大胆な目標 Big Hairy Audacious Goals)は、きわめて大きく、むずかしい目標である。未登頂の高山のようなもの、明確で魅力的であり、従業員がただちに理解できる目標である。
悪いBHGAは虚勢によって設定されたものであり、良いBHGAは理解によって設定されたものである。


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